連載13 余白をつくる、ガイドの心得
年越し、みなさまいかがお過ごしでしたか? 私は88歳母と過ごすお正月、珍道中でした。食べたことを忘れてしまうので。50年近く、朝のウォーキングと太極拳を続け(公園に住むオジサンたちとも顔見知り)てきた。習慣はすごいです。朝歩かないとストレスがたまるらしい。老人ホームにいる91歳父は母に比べるとやり取りができますが、からだは母のほうが全然強いです。自分もこうなるんかなと思うとコワイですが、80歳まで母は本の校正のしごとをしていたから、私もあと20年は働けるかなと思って、道なかばです。
初夢は「“アンニョン スマホ〇〇法”が韓国にできた」というものでした。「それはたいへん。調べなくちゃ」と勢い込んで目が覚めました。とほほ。社会福祉士試験が迫っているからか福祉の法律で頭はパンク寸前、はたまた年末年始、勉強に飽きると韓国ドラマを見ていたせいか。。。
前回冒頭に自宅出産の話を書いたついでに、記録しておきたくなりました。
引き出しの中から出てきた母子手帳。左から自分の、娘A(1988年)、娘B(1995年)。そして2回の領収書です。磯子区滝頭という横浜市内でも渋い下町の田畑助産婦さんの場合が、金15万円也。次が近所ゆえラッタッタに乗って通ってくれた豊倉助産院の助産婦さんの場合、29万5千円。内訳が面白い。産後出張料。これは何日も通ってきてくれ、ありがたかったです。マッサージや温灸、子宮の戻りをよくするといって下からよもぎ蒸しをしてくれた。あとは胎盤処理料。これは1回目も「持って行っていいですか」と聞かれた。化粧品の材料になるとか? 庭に埋めとくと木が大きくなるとか? 食べちゃう産婦もいるくらい栄養のかたまりであるらしい。
さて、余白の回。ちょっと記憶をさかのぼります。
左は鞄工場になっていた洋間の前で、母と。右は祖父と。
だれにでも、しごとの原風景があるのではないかと思う。
ものごころついたとき、一緒に住んでいた母方の祖父が、古い日本家屋に一つだけあった広い洋間で、ちいさな鞄工場をやっていた。父母と私は、寅さんの故郷、葛飾・柴又にある母の実家に居候しており、長女だった母の妹弟(おばさんおじさん)や職人さんたちのいる大家族だった。祖父は小学校4年しか通えず、丁稚からたたき上げてのれん分けされたワンマン社長・家長としていばっていたが、初孫の私にはやさしかった。毎朝いっしょに散歩したり、庭で落ち葉焚きをしたり。
日曜休日もなく、祖父は3メートルもあろうかという長~い作業台に黒や茶の牛皮をザーッと広げ、そこに型紙を色んな角度で当てていき、どうしたら少しでも余りが出ずに取れるかを思案する。決めたら小刀で切っていく。その手元をじっと見ているのが子どもの私は大好きだった。それから職人さんが工業用ミシンで縫い、20本くらいずつ同じ型・色違いの鞄ができあがると社用のバンに積んで、祖父の育った老舗の鞄問屋に納品に行く。一連の工程は目に見え、しごとは手の中にあるものだった。作る先には使う人がいた。職人のこだわりも誇りも光っていた。いまでも、職人仕事には憧れる。
祖父が現役を引退したころ、跡継ぎのおじさんはもう鞄をつくっていなかった。アジアで量産される時代になっていたと思う。それでも、祖父は横浜に引っ越した私たちの家に遊びに来るたび横浜高島屋に寄って、今どんなデザインの鞄が流行っているのか、縫製はどんなふうか、などをチェックしていた。それはしごとというより、身についた習慣、所作のような。
私も入職10年ほどたって場をつくるしごとがやっとおもしろくなってきたとき、できることならプロのしごとをしたい、と思う自分がいた。 そのことは連載2に少し書いた。企画や場づくりは目に見えない準備が7割、というやつだ。収入が発生してもしなくても。興味のある方には読んでいただくとして、とどのつまりはシンプルに「この場に来てよかった。あたたまった。もう少し、生きつないでみよう」と思う人が何人かいて、空気が伝染していくと、その体感はその人に効く温泉の湯の花のようなものになるのでは、と思っている。それらをどうつなげて、次をつくっていくかは、まあ副産物なのかもしれない。
私自身、「ここに来て見てよかった♡」「今日ここでこの人に会えたのは天の贈り物」と思うことがある。でも、本当にからだが喜んでいるときはそんなことも思わないような。ただただ、温まっている。温泉につかっている。みたいな。何か月かこれでやっていける。
場を作ることは楽しかった。やっている人が楽しそうかどうか、工夫が編まれているかというのは、私はかなり重要ポイントだと思う。楽しい空気は人に伝わる。最初は誰だってよくわからないから、不十分でもしかたない。でも、へたに満足したり、こんなものだろうとは思わないほうがいい。完璧でなくてもいい。余白があるからこそ人とのやり取りが生まれ、人がかかわる力を引き出すということは昨年末、日本遺産候補を応援する「鋸山ガイド実地講座」で学んだことだった。これは場づくりの極意だと思ったな。実地の学びはすばらしい。
S字回廊となっている手掘りの石切場跡。ここは危険だから人を案内するなとガイド講座で言われている道。どうしてこんなに石が好きなのかは謎。こつこつと掘り下げていく、も積み上げていく、も苦手だからかも。
ちなみに『日本の下層社会』(横山源之助,1899年)に明治30年のストライキとして「千葉 保田石切工250名 7/4より7日間同盟罷工 石切工賃増を要求、賃金増加す」とある。
フェイスブックにも書きましたが、グループワークの開始期から終了までコミュニティワークの理論を意識し、順序を入れ替えたものをここに記録しておきます。
▼わたしの思うガイドの心得10
1 案内人は立ち位置を意識する。物理的な意味で。お客さんが見晴らしのいい方向に立てるように。暑かったり寒かったり、まぶしかったりしないように。(室内なら部屋の温度は適温か。空気の入れ替えはちゃんとしているか。)
2 少人数なら初めにアイスブレイクを。人の名前は覚えるべし(年取るとつらい。でも大事)。
そしてルールは最初に提示する。山ならたとえば、前方から人が来た時にどちら側に寄ります、とか。ワークショップなら安全な場をつくるために皆が守るべきグランドルールを共有。プライバシーの守秘についても。
3 自分がなぜこれをやっているか、セルフストーリーを語れることが大事。どんな人なのか、身近になる。また会いたくなる。
4 説明はまず全体を俯瞰してわかるように(時間と内容のスケジュールを最初に提示するのは、どんなときも大事と思う)。次にポイントごとに。説明は長すぎず。過ぎたるは及ばざるがごとし。
5 ある人は当然知っている言葉でも、別の人は知らないことがある。思い込みは捨てるべき。認知は人それぞれ。だれにでもわかる言葉でわかるように説明を。(たとえば山で出たのは「切通し」という言葉でした。私には鎌倉の7つの切通し、などなじみ深いので普通名詞かと思ったらちがった。反省しました)
6 行程はぎちぎちにせず、少しでも自由時間を多くとること。すきまが満足度を高くする。それには欲張りすぎず、削る勇気が大事。たくさん提供するから満足するわけでは決してない。何かを優先することは何かを捨てること。
7 完璧であることよりも、人と少しでもやりとりできるすきまが大事。
それには「質問があったらいつでも個別にでもどうぞー」と声かける。質問されてわからなかったら、調べて時間をおいて答えればいい。
8 プログラムの はじめと終わり(クロージング)は超重要。いつ始まっていつ終わったかわからないようではいかん。そこでみんなの気持ちがぐっと集まるから。。。
9 写真はいろんな角度から撮り、上手であるほうがよい。セブンデイズのアプリなど利用して共有、還元するスキルとか。(これは今日的なスキル。訓練が必要かも)
10 今日のこの場の全体テーマは何なのか。すとんと落ちて納得し、持ち帰れるネーミングが付されているか。なぜここに価値があるのか、ストーリーを語れるか。また来ようと思ってもらえるか。
■まとめ
いちばんだいじな3つのポイントは、(たぶん)
1 安全優先で何ができるか
2 人と人のやりとりをどんだけ楽しめるか
3 ストーリーづくり(「コンテクスト・デザイン」と言うらしい。これはすでにできたものを押し付けるのでなくて、参加してもらう余白をどうつくるか、ということ)
画像、寝てしまいました。影絵にうっとり。100年前の石切場。もうずっと人が入っていないと思われる。。。
人はそのときどきに、人や本や場に出会い、自分にとりこんでいくのだと思います。あなたはどんなものをよきものと受け取ってこられましたか?
私は、西村佳哲(よしあき)さんの『自分のしごとをつくる』『自分をいかして生きる』(ちくま文庫)、伊藤洋志さんの『イドコロをつくる~乱世で正気を失わないための暮らし方』などにけっこう影響を受けました。魔女のようなお姉さま方も何人か浮かびますが、生身の人については書くのがむつかしいです。
横浜の隠れた夕日名所。360度の展望はなかなかない。富士山も見えます。弘明寺公園の展望台から
▼ご感想を募集します
この連載も、独白のように書くだけでは不安ですので、年も改まって、みなさまの感想をお聞きしてみたいと思います。どの回かに共感したらどこに、なぜ? 違和感あったらどんなふうに? 別の角度から別の体験者の目でみると? みたいなのもぜひ!
ハンドルネームでお寄せいただけましたら。私をあまり知らない方も大歓迎です。ひとことでもありがたいですが、ツイッター3つぶやき分、420字以上の方(登録者限定)に抽選で、私の煮ている無農薬・甘さ控えめ「A 大人のマーマレード(ビター)」か「B従順な鬼ゆずジャム」を差し上げます。一応今月末までに。このメールに返信いただくと届きます。
(どうやって届けるかはご相談で。)そもそも、煮るという行為が好きです。柑橘の香りをかいでいると幸せな気持ちになるのです。では、付き合ってもいいよ、と思われたらよろしくお願いいたします。
(すでにコメントいただいている方にはすみません。カウントします。)
すでに登録済みの方は こちら